終戦記念日
本日は終戦記念日です。
そこで本日は、日本の未来、家族の未来のために命を捧げた特攻隊員たちを見送り続けた鹿児島知覧・富屋旅館の鳥濱トメさんのエピソードを特別配信させていただきます。
■■■ ホタルになって帰ってきた特攻隊員■■■
トメは「ホタルになって帰って来る」と言って飛び立っていった宮川三郎軍曹の話もよくしていました。
宮川さんは20歳で一度、加世田の飛行場から出撃したけれど、機体の不調で引き返してきました。
そのとき一緒に飛び立った隊員は全員戦死していたため、知覧に移動してからも一日も早く出撃したいと訴えていたそうです。
その宮川さんに出撃命令が下りました。
出撃の前日、昭和20年6月5日の夜に、宮川さんはやはり機体の不調で引き返してきた滝本恵之助曹長とともに富屋食堂に別れの挨拶にやってきました。
そのとき宮川さんは「今度こそ、どんなことがあっても見事轟沈させて帰ってくる」とトメに言いました。
それを聞いてトメは小首をかしげました。
体当たりすれば命はありませんから、帰って来たくとも帰ってこれるはずはありません。
トメは宮川さんの言葉が気になって、「どげんして帰っとな?(どうやって帰って来るの?)」と思わず聞いてしまいました。
すると宮川さんは窓の外に目をやって、藤棚に来ているホタルに目をとめていいました。
「ホタルになって帰って来る」
それからこう言葉を加えました。
「だからホタルが来たら俺だと思って、追っ払わないで受け入れてほしい」
「でもどうやって宮川さんのホタルを見分けたらいいの?」
トメの長女の美阿子さんが尋ねると、宮川さんは食堂の玄関を指差して
「あそこから入って来るから。滝本と二人だから二匹だよ」
と答えました。
「何時頃に帰っていらっしゃるの?」
今度は次女の礼子さんが聞くと「9時だよ。明日の晩の今頃に帰って来るようにするから、俺たちが入れるように、店の勝手口の引き戸を少し開けておいてくれよ」
と答えました。
「わかった。そうしておくよ」トメは言いました。
「俺が帰って来たら、 みんなで『同期の桜』を歌ってくれよ」
「わかった、歌うからね」
「それじゃあ、おばちゃん、お元気で」
翌日の夕方、一緒に出撃したはずの滝本さんがちょんぼりとした様子で富屋に現われました。
「あら今日は一人なの、宮川さんどうしたの?」
トメが尋ねると、滝本さんは首を振りながら言いました。
「悪天候に見舞われて、開聞岳を過ぎたあたりから霧が深くなって全く視界が効かなくなった。引き返そうと何度も宮川君に合図を送ったのだが、宮川君は『俺は行く、お前は戻れ』と合図をしてそのまま行ってしまったんだ」
そのとき、長女の美阿子さんが大きな声を上げました。
「お母さん、お母さん、ホタルだ!ホタルが入ってきた!藤棚にホタルだ!」
トメが勝手口にかけつけると、確かに美阿子さんが指さすほうからホタルが一匹入ってきました。
時刻を見るとまさに9時。
「このホタルは宮川さんですよ!ゆうべここに来て、見事撃沈したらホタルになって帰って来るからと、約束して行ったんです!」
礼子さんがそう言うと、富屋にいた全員が騒然となりました。
「宮川だ、宮川だ!」
「宮川が帰ってきたんだ!」
それから宮川さんが望んでいたようにホタルを取り囲むようにして
『同期の桜』をみんなで歌ったのです。
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あるとき、トメはこんな話をしてくれました
「人は役に立つとか、立たないとかではなく、相手を思う心ですよ。
相手を思う心があれば、決して日常の些細な揉め事も、食い違いも、いさかいも、
人が人を殺し合うような戦争にまでは発展していかない。
相手を思う心とはね、思いやりとはまた違うと思う。
思いやりは片方が高い所から思ってやっているという言葉。
けれどおばあちゃんの言う、思い合う心は双方が同じ目線に立って初めて成り立つということ。
今、自分が相手を思って手を差し伸べるときなのか。
今、自分が相手を思って見守るときなのか
今、自分が相手を思ってじっと耐えなければいけないときなのか。
相手を思ってなす行為ですよ。これが観音様の心。慈悲慈愛の心。
これを伝えていってほしい」
なぜ若者たちは笑顔で飛び立っていったのか(致知出版社刊)より
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